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夏の夜、冬の朝

「セリフなんて無意味」

『セリフなんて』

シナリオ

 

 

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気怠い身体にスポーツ飲料を注ぎ込んで、パソコンを開いた。

 

文章を書くことが好きだった。10代の頃、気が付けば手帳のフリーページを字でいっぱいに埋め尽くすのが癖になっていた。日記のようなもの、映画の感想、誰かの名言、好きなバンドの歌詞、なんでも書き残していた。そのうち手で字を書くことに面倒くささを、というか、鬱陶しさを感じて、パソコンのキーボードを叩くようになった。

 

それなりに人目に付く場所で書き残すこともしてきた。人からは「いいよねえ」なんて言われたりすることもあって、ちょっとだけ得意げになったりもした。

 

書けば分かると思っていた。書くことが正解だと思っていたし、書くべきだと思っていた。

 

 

 

部屋の掃除をしていたら、10代の頃に書いた手帳が出てきた。わくわくしながら開いて、真っ黒と表してもいいくらい、字で埋め尽くされたフリーページ。でも、読んだって分からなかった。その時、その一瞬を、上手に書き残したつもりでいたのに、全然分からなかった。読む気が失くなって、表紙を閉じた。

 

 

 

何を残してきたつもりでいたんだろう。私はただ、忘れずにいたかっただけなのに。真っ黒なページは、本当にただの黒い紙でしかなくて、無意味で、まっさらだった。残るモノなんてひとつも無かったんだ。

 

そう気付いた途端、私はみるみる落ち込んだ。今まで意味を持っていたものが一瞬で奪い取られて、悲しかったのかもしれない。でもはじめに感じた気持ちが落胆だったのなら、きっと私は、私にがっかりしたんだと思う。なにも正しくなかったじゃないか、なんの意味も無かったじゃないか。そう思うと苦しくてたまらなかった。

 

 

 

どんどん抜け殻になっていく。どんどん意味の無いものになっていく。そうして自分さえ意味が無いように思い始めて、右も左も分からなくなった。なにがしたいだとか、ほしいだとか、ぜんぶせんぶ。

 

 

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「え、このあとですか?ないですよ、まだ。うん、ないです。アレですよね。このあと誰かに出会って運命が変わるとか、なにかしら努力してなにかしら成功するとか、そういうことですよね。結末。や、ないですよ。考えてないです。だってこの話、今の私のことだもん。現在進行形。ふふ、そうそう。色々パターンも考えたんですよね。さっき言ったのもそうだけど。でも、正直どれもつまんなさそうじゃないですか?うん。なんかありきたりっていうか。そんなの面白くないに決まってるじゃないですか。そもそもこの話、書き残すことに意味なんてないと思うんですよね。だから特に大切でもないっていうか。でも、みんなそんなもんでしょ。小説や物語なんかじゃないですよ、生きてくってことは。みんなぼーっと生きてるし、何かを成し遂げようと思って毎日一生懸命、とか普通にないですって。むしろ習慣ですよね。習慣でしか人間変われないですから、そもそも。仕事やめようが学校やめようがツイッターやめようが間食やめようが、やめることで変わるものなんてひとつもありませんよ。続けることでしか変わりません、人は。え?この子この後どうなるのか、ですか。さあ、どうなるんですかね。書くの辞めちゃうんですかね。それとも書き続けるんでしょうかね。私は後者だと思いますよ。まあ、私のことだから答え分かってるんですけど(笑)でも、ただ書くんじゃないですよ。書き方を変えるんです。もっとおもしろく、書けるようにするんです、自分で。続きはお楽しみってことで。分かることがあるんですよ、こうやってセリフにすることで。」